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2015年4月12日日曜日

モリエール 『人間嫌い』 




人間嫌い 1666年発表 パレ・ロワイヤルにて。
Le Misanthrope ou l'Atrabilaire amoureux 
コメディー・フランセーズ
20001月収録
 Atrabilaireとは、気むずかし屋、怒りっぽい人、というような意味です。

 そもそもアルセストがセリメーヌに恋したのはなぜなのかがわかりません。よき友人のフィラントから忠告されていたのですが。恋は盲目というように、相手の欠点を美点と見てしまう、というよくあるような話をこの劇中でも披露しますが、やはりそういった事からアルセストはセリメーヌに恋をしたのでしょうか。アルセストは、面と向かって率直にものを言います。曲がったことは嫌いです。セリメーヌはその反対です。だのにアルセストは嫌いなタイプであるはずのセリメーヌに恋をした、という設定はおもしろい皮肉です。
 セリメーヌはその場にいる人には非常に褒めそやすことを話し、その場にいない人物を次々にこけ下ろします。彼女はある人物の欠点を見つけては、それをその人の全体の評価として拡大して、その人物の価値を引き下げます。その場にいない人に対してそれをやるものですから、結局は、順繰りに一人残らず全員をこけ下ろすわけです。彼女は、暗くて陰険な側面があるのです、いわゆる悪い女です。彼女は世間をなめています。自分を取り巻く人たち全員の欠点を心の中であげつらって、彼女に対する非難に対しても、あざ笑って軽蔑しているようです。しかし、このように人をあざけり、世間をなめている彼女ですが、他方では、彼女の最大の弱点は、孤独という病いに陥ることを恐れているということです。皆にいい顔をしながらも、他方では軽蔑している、というこの二つの相矛盾する傾向があり、さてどちらが彼女にとって重要性を持つのでしょうか。彼女は、甘く考えていて、すぐに化けの皮がはがれるようなことをしでかしていたのです。
 彼女は、最後には世間のなかで生きていくことができなくなります。アルセストは砂漠に一緒に行って罪を償うしいかないとセリメーヌに話します。彼女はもはやパリの貴族達の社交の場には棲息できなくなりました。あるいは人間社会で生きていくことができないくらいにまでなったようです。セリメーヌには、悲しみと孤独と不安と、そしてそれでも懲りない性(さが)が透けてきたりするところがあります。

 このようなセリメーヌですが、アルセストは、彼女の奥に真実があるのではないかとみていたのですが。彼女は単に悪いということではなくて、真実と偽りが層状になっているのでしょうか。