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2015年3月29日日曜日

モリエール 『ヴェルサイユ即興劇』1663年



『ヴェルサイユ即興劇』L'Impromptu de Versailles 1663年ヴェルサイユ宮殿にて初演。


1663年ヴェルサイユ宮殿にて初演。

 おそらくモリエールが劇中の主人公モリエールを演じていたのでしょう。モリエールは王(つまりルイ14世)の命により喜劇を一本創作して上演しなければなりません。その上演まであと2時間です。出演者はまだセリフをおぼえていません。そしてどう演出するのかもまだ決まっていません。皆大いに不安になっています。王をどう笑わせるのが課題です。劇団員たちはモリエールに安請け合いをした、と責め立てます。

 これはモリエールの劇団の舞台裏を舞台にしたものです。『女房学校批判』という劇の次の作品です。『女房学校』が批判されたので『女房学校批判』を上演したのですが、それも批判されたようで、王がモリエールに命じたのは「モリエールが受けた悪口を用いて喜劇を書け」ということでした。

 次第に、この新作の練習が進んでいきます。宮廷の控え室での人間模様が描かれます。まず、ある侯爵が別の侯爵に出会います。二人は角を突き合わせながら、『女房学校批判』に描かれた侯爵は、果たしてお前なのか俺なのかどちらをモデルにしたのか、賭をしようということになりました。この出だしは、とても面白い着想でスピード感があるのですが。やがて宮廷の社交をパロディにして皮肉ったりもします。そして、モリエールがモリエールを話題にして話します。だんだんに、現実と劇中は混同されてきてきて、劇中劇のようにもなってきます。前作の次の作品をつくる光景を劇にしています。いわゆるメイキングを劇にしています。一体何が本当であって、何が劇作なのか解らなくなるような錯覚も生じます。モリエールが演じるモリエールは一体何が言いたいのでしょうか。モリエールには敵がいて攻撃されていて、それをうまく喜劇にしないといけないのですが。だんだん訳がわからなくなってきて、稽古不足のまま不安と混乱でモリエールも劇団員たちもパニック状態になっていきます。そして何と、王が待ち構えているから早く幕を上げろ、という知らせを予想以上に早く告げられるのです。

 これはもう悪夢というか不安夢です。つまり、まだ劇が出来てないのに幕が上がってしまうという夢です。たとえば、多くの人が見る夢内容としては、テストを受けて全く出来なくて落第する夢とか、舞台に上がってセリフを忘れてしまった夢などがありますが、これはそういった類いの不安夢です。

 しかし、この大ピンチは、王の寛容によって救われます。今日はもう構わないから、新作ではなくてこれまでの作品を上演すればよろしい、と。不安夢から目が覚めました。ホッとしました。  劇中では、批判者に対して激しく反駁するようなところもありました。しかし、これ以降、モリエールはさらなる批判には応じなくなったと言います。