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2015年3月20日金曜日

モリエール 『守銭奴』1668年





守銭奴
1668年
L’Avare
2000年公演 コメディー・フランセーズ

 主人公のアルパゴンだけでなく、いろいろな登場人物が金に囚われているようです。
 封建社会であっても、貨幣経済は浸透しています。世の中は、交換経済が基本、ベースにあります。
 父親アルパゴンと息子クレアントが一人の女性マリアーヌを巡って次第に対立を先鋭化させます。父親も息子も他のものはいらない、女性だけを我が物としたいと考えるようになります。
 これはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』にも似ているように思われます。つまり父親フィヨードルと息子ドミートリイがグルーシェンカという女を奪い合います。フィヨードルもやはり守銭奴でもありました。また金が大きなテーマにもなっています。
 金と恋愛という二つの原理。この原理は人間の活動の大きなモチベーションにもなっています。
 また父親アルパゴンが守銭奴とされている訳ですが、彼はお金を手に入れて何かを購入することが目的ではありません。つまり、交換経済の基本にしたがって、何か物質とかサービスを手に入れることには無頓着なのです。彼は、蓄積の傾向が強く、蓄財することが目的であり、当時であれば金貨を貯めることを目的としています。交換経済と蓄財は似ているようでありながらも、異なるものです。つまり、貨幣(金貨)を、交換経済から分離させて、蓄積させることが目的です。アルパゴンは、この交換経済から分離された蓄財を崇拝しています。これをおそらくは物神崇拝のひとつの有り様だろうと思われます。
 また、アルパゴンは、女性を自分のものとして独占しようともしていました。貨幣の囲い込みと女性の囲い込みは、どことなく対応しているようです。
 結局アルパゴンは、蓄財された金貨を守り、崇めて、慰めを見いだします。
 アルパゴンの孤独であり、彼は、囲い込んだものを失うときに狂気じみた状態になるのです。だから、物神崇拝・蓄財の背後には孤独があるということになるのでしょう。