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2015年6月7日日曜日

モリエール『アンフィトリヨン』1668年発表

 ソジ


アンフィトリヨン』

仏語原題: Amphitryon
『人間嫌い』『いやいやながら医者にされ』などが発表された1666年から2年たった作品です。それまでいくつかの作品もありますが、2年とんでこの作品をみてみたいとおもいます。

 第1幕
 ジュピテール(ジュピター)は人間の美女を見つけてはいろいろな姿に化けて美女を追い回し、手練手管でモノにするということを繰り返しています。今回は、ジュピテールはアルクメーヌという美女に恋をします。その夫の名がアンフィトリヨンです。アンフィトリヨンはテーベ軍との戦争を指揮していますが、その留守のあいだに、ジュピテールは計略を働かせ、アンフィトリヨンの姿形に化けてなしすまして、アルクメーヌを味わうこととします。実はアンフィトリヨンとアルクメーヌは新婚ほやほやで、初夜を共に過ごすことなく、アンフィトリヨンは急に戦争に出かけたのでした。新婚ほやほやなので、二人は情熱的であり、ジュピテールにとってはもってこいのシチュエーションなのです。
 ジュピテールの従僕メルキュール(マーキュリー)はジュピテールの計略を助けるためにアンフィトリヨンの従僕ソジに化けます。ソジに化けたメルキュールはソジに対面し、ソジの同一性を暴力と力によって奪取しようとします。もちろんソジは抵抗します。さんざんに棒で叩かれましたが、それはある程度効果的でもありました。しかし、最後にはメルキュールがソジしか知り得ない事柄をたくさん知っているという知識によって、本物のソジはメルキュールがソジであるという同一性を承認してしまいます。
 さてジュピテールは、アンフィトリヨンに化けて、アルクメーヌと一夜をともにします。ジュピテールは、アルクメーヌに夫として愛するより恋人として愛して欲しいと懇願します。彼女はそれを訝しくおもいつつ、戦地に送り出します。


 第2幕
 本物のアンフィトリヨンと本物のソジとの対話の場面からです。二人のソジという混乱したテーマをアンフィトリヨンは全く信じずアンフィトリヨンはイライラして怒りまくります。そしてアンフィトリヨンは帰還しアルクメーヌと対面します。驚いたアルクメーヌは、戻るのが早すぎると話すため、アンフィトリヨンは怒り出し、大げんかになり対立が先鋭化します。それにしてもこれは不思議な出来事です。アルクメーヌは戦利品のダイヤの飾りをすでにアンフィトリヨンから受け取っていました。アンフィトリヨンは封印していたはずの手持ちの箱を開封してみましたが、ダイヤの飾りが消えていました。何のトリックなのか、分からなかったのですが、アンフィトリヨンが次に心配したのは、自分の名誉が汚されたのではないかどうか、ということでした。つまり、妻の貞節が汚されたのか否かか、を疑い、真実を知ろうと詰問します。そうするとどうでしょう、妻は昨夜の情事をあっさり白状しました。SI TENDRE,SI PASSIONE,(とてもやさしく、とても情熱的) などと表現しながら、共に寝たというのです。不実なPERFIDEな妻を裏切り者と断罪します。
 ここに至って、モリエールのテーマとも言える寝取られ亭主COCUのテーマが明瞭に現れます。しかも今回は未遂ではなく既遂です。完遂です。初夜を寝取られたのでした。
アンフィトリヨンは怒りに駆られながら館を後にします。
 まもなくアンフィトリヨンの姿をしたジュピテールが再びアルクメーヌの前に現れます。アルクメーヌは先ほどのアンフィトリヨンによる訳の分からない侮辱に対してひどく腹を立てています。ジュピテールはアルクメーヌにじゃれつくように追い回して許しを請います。彼女は許しません。ジュピテールは詭弁により、先ほどの夫と恋人の二重性の論理を説きます。それでも彼女は許しません。芯の強いアルクメーヌでも少しずつは緩和している手応えもあります。更にジュピテールは次の一手を繰り出します。アルクメーヌが許してくれないのなら、この剣の一突きによって自ら命を絶つと叫ぶのです。これによってアルクメーヌはジュピテールを許し、仲直りし、またしても妻を寝取ったのです。アルクメーヌをモノにしたのがこれで2度目です。


 第3幕
 ちょうどそこにアンフィトリヨンが戻って館の中に入ろうとします。するとソジに化けたメルキュールが乱暴に阻止しました。情事のさなかであったからなのでしょう。その後に彼は館に入ってみて、はじめてもう一人のアンフィトリヨン(つまりジュピテール)と対面しました。もう一人のアンフィトリヨン(=ジュピテール)はこの館の主人のごとくに振る舞っていて、それどころか館の男達もそれを認めるという意見が大勢を占めていました。このように形勢が逆転していることは、本物のアンフィトリヨンにとって、驚くべきことでした。
 アンフィトリヨンは少数の忠臣とともに、復讐を談合し、興奮と緊張は高まり、いざ実行という段に突入しようとしたとき、突如としてジュピテールがその真の姿を現します。ジュピテールは緊張した烈しい口調で長々と演説をします。
 アルクメーヌが2度寝取られたという事実には変わりありませんが、一応ここでピリオドがうたれます。アンフィトリヨンは茫然自失の状態で、言葉を失い、宙を見つめたままです。

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 全体に、不可思議で神秘的な雰囲気が漂っていました。

 この演出は和風の雰囲気を滲ませています。扇子、着物、琴、旗、ホラ貝、そして音響など。古代ギリシアと和風は馴染みやすところがやはりあります。


 また、この作品の成立の背景としては1668年にモンテスパン侯爵夫人フランソワーズ・アテナイスがルイ14世の愛妾になったという出来事があるようです。この出来事のばあい、寝取られ亭主COCUは、モンテスパン侯爵(ルイ・アンリ・ドゥ・パルダヤン・ドゥ・ゴンドラン)でした。