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2016年1月20日水曜日

『シラノ・ド・ベルジュラック』 エドモン・ウジェーヌ・アレクシ・ロスタン原作



シラノ・ド・ベルジュラック (戯曲)

Cyrano de Bergerac

フランス人エドモン・ウジェーヌ・アレクシ・ロスタン(Edmond Eugène Alexis Rostand、1868年4月1日 - 1918年12月2日)作の五幕の韻文戯曲

17世紀フランスに実在した剣豪作家、シラノ・ド・ベルジュラックを主人公にしている。彼の生前では、この作品は大当たりであったが、それ以外はとくには大きなヒット作はなかった。現代に残っているのもこの作品くらいである。

しかしとてもよくできた作品と思われる。



1897年パリにて初演



第1幕

シラノは鼻が大変長く見かけがよくない。あるときシラノは、幼馴染の従妹ロクサンヌに言い寄っていた貴族を、即興の詩を読みながら刺す。シラノはその貴族を嫌いのようである。詩と決闘を組み合わせる見事さに周囲の人たちは感嘆し称賛する。またシラノは友人のル-ブレにロクサンヌへの恋心を打ち明ける。

第2幕

 シラノはロクサンヌと会い、親しく言葉を交わす。ロクサンヌは、優しくシラノの手をとり傷の手当手をするが、そのときある貧しい青年貴族(男爵)であるクリスチャンへの恋心を打ち明ける。どうやら二人は相思相愛でありつつもお互い、気持ちを打ち明けられないようである。シラノはロクサンヌのこの話を聞きながら、何度もただ、「はあ」、を繰り返す。この「はあ」は、意味合いやニュアンスが変化していく見せ場のひとつになっている。

 ふたりはいとこどうしであり幼馴染みだが、シラノがやんちゃな子供であるかのように、傷の手当てをする彼女の優しさ、そしてその際に他の男への恋心を打ち明けるというのは、趣のあるシチュエーションです。

 その青年クリスチャンは、シラノと同じ近衛のガスコン青年隊(ガスコーニュ地方出身の者たちで構成)に今日から所属しているという。そしてロクサンヌはこの青年の長所をいくつか列挙したが、シラノは、この青年の「美しい」という言葉に特に反応する。要するにロクサンヌはクリスチャンの美しさに恋をしたようである。ここでシラノの「はあ」という繰り返しは終わる。シラノは自分がロクサンの愛の対象にはなりえないと悟る。ロクサンが言いたい主旨はシラノにガスコン青年隊内でクリスチャンを保護してほしいことであり、シラノはそれを約束する。シラノは先ほどはロクサンヌのために人を剣で刺すという荒々しい行動に出たのだが、ここでは彼の実直な性格が表れている。

 青年隊に戻ったシラノはクリスチャンと初対面となる。シラノは美青年でなく、獣のようであるが、詩人であり愛の言葉が豊富である。それに対して、クリスチャンは愛の言葉を欠き女性の前ではひどく緊張してしまう。

 体はクリスチャン、言葉はシラノ。つまり愛を交わす唇はクリスチャン、言葉はシラノ。シラノはこの構想に、意外にも熱心になる。シラノは自分の心と言葉で自分の恋心を成就させるために、彼はクリスチャンという外形に乗り移るという方法を思いつく。しかし愛を成就させたあとは、シラノは退かなくてはならないはずなのだが。目標を達成したのちに、対象を獲得することはできない。それでも、シラノは自分の恋心とクリスチャンの恋心の両方を成就させたいと思う。しかし、クリスチャンはシラノのあたかも腹話術にようでもある。シラノは自分が書いたロクサンヌへの恋文をそのままクリスチャンに手渡し、それをロクサンに送るように助言する。



第3幕

 30年戦争のさなか、ルイ13世による1640年のアラスの包囲戦が行われた。ロクサンヌは自分に横恋慕するド・ギッシュ伯爵に、青年隊の出征をやめさせようとする。それが血の気の多いシラノに対する報復になるから、とうそをつきド・ギッシュを説得する。ド・ギッシュはそれは妙案だと思う。

 その後、ロミオとジュリエットふうに、夜のバルコニーの上と下でロクサンヌとクリスチャンは逢い引きをする。

 クリスチャンは、シラノの作った詩をたどたどしく語り、ロクサンヌを感心させるが、そのたどたどしさをいぶかしく思うので、横にいたシラノがクリスチャンの声を真似て自らが代行するに至った。シラノはロクサンヌと恋を語り合い、次第に熱がこもる。シラノはロクサンヌの情熱に火をつけてしまい、クリスチャンは彼女と口づけをして、恋の契りを交わす。

 ド-ギッシュが仮面をもって人目を忍びながらロクサンのもとに再びやって来る。そこにシラノは仮面をつけて大袈裟に墜落して彼と鉢合わせする。月世界から落ちてきた、と完全にとぼけるシラノ。彼は気狂いのふりをする。シラノは顔を隠しているのでギッシュは彼とは気づかない。シラノが意味不明な話を並べ立てているあいだに、若いカップルは結婚の儀式を終えてしまう。シラノは時間稼ぎをしていただけだったのだ。怒ったギッシュはシラノやクリスチャンともども、ガスコン青年隊を激戦地のアラスの包囲戦の前線に送ると言い渡した。



第4幕

 アラスの前線にて。

フランス軍はスペイン軍に包囲されている。シラノはこの地を死守するようにギッシュに命じられる。シラノは日に2回もロクサンヌに書いていたのだが、彼女はこの手紙に魂を奪われ、驚くべきことに包囲網を潜り抜け、危険なフランス陣地にやって来た。ロクサンヌはクリスチャンにはじめは彼の外見に恋をしていただけだったのだが、バルコニーの一件と一連の手紙で、すっかり彼の魂を愛するようになったとい打ち明ける。それを聞いたクリスチャンは大変複雑な心境であった。それだけではなく彼女は彼の外見ではなく魂のほうこそをるようになった、例え彼が醜くなったとしても彼を愛すると告白し、彼はショックで愕然としてしまう。つまり、これはもはやクリスチャンを愛しているということではなくて、シラノを愛しているということを意味しているである。

 その直後にスペイン軍の総攻撃が始まり、あっという間にクリスチャンは戦死する。



第五幕

 15年後、ロクサンヌは修道院にはいり、なおも黒い喪服を着たままであり、シラノは頻繁にロクサンヌのもとを通っている。しかしシラノは、彼の言動によって、敵だらけであり、事故を装って殺害を目論まれて、頭部に重症をおう。それでも彼は約束通りにロクサンヌを訪れた。ロクサンヌは遂にシラノの真実を知ることとなる。ロクサンヌはシラノへの愛を自覚する。ここで相思相愛の愛が成就したと思われるのだが、シラノは絶命する。彼はクリスチャンの一見についもずっと罪の意識を感じながら、死んでいったと思われる。

 悲しみ。

 シラノは善き人、信義を守る人。正義の人でありながらも、過ちを犯すこともある。正義の人であるがゆえに、敵を作りやすく恨みを買いやすく、卑劣な手段で殺害された。