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2016年3月28日月曜日

ボッカッチョ『デカメロン』序文 

 



ボッカッチョ 『デカメロン』 序文 



 激しく強く苦しい恋は今は楽しい記憶にとどまるものとなり、「私」つまり作者ボッカッチョを友人たちが励まし慰めてくれた記憶は生き生きと残っている、という書き出しで始まります。謙虚で礼節のある文面での書き出しです。そしてまたボッカッチョは感謝の念こそが大切であり、友人たちから頂いた慰めを、今度はそれを必要としている方々に与えたいと言います。思うに、人から受けたご恩を感謝の念をもって人々に与えたいというのは、心の正しい向け方であると思われるのです。こういった心の向け方は、ご恩をいただいた方に対する何よりも喜ばれるお返しでもあるでしょう。
 しかし、ここから少し逸れてきます。なおかつこれは重要でもある点です。これを与えてあげたいのは主に女性に対してです。女性は、夫や父親や兄弟などの桎梏に縛られ、恋の情熱に苛まれ苦しまされ、狭い部屋で耐えなければなりません。男であればいろいろな方法でこれを晴らすことができるのに、女性はほとんど方法がありません。そんな女性たちに、この本の物語を読んでもらって慰めや喜びを得て欲しいと言います。この書物は女性を主たる対象としているということになります。この点は興味深い着目点であると思われます。
 また、上のことから私が思うに、ボッカッチョは女性のヒステリー的な側面に着目しているのではないでしょうか。
 もっとも全てが女性のための書物とも思われません。語り手は、男性が3人に対して女性が7人です。ですから、3:7の割合で女性向けというふうにひとまず単純にみなすこともできるでしょう。