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2016年7月2日土曜日

ダンテ 『神曲 天国篇』第2歌

ダンテ 『神曲 天国篇』第2歌

 ベアトリーチェ「神様に感謝しなさい。神様は私たちを第一の星へお導きくださいました。(p22)」ベアトリーチェとダンテは特別な関係性をもっています。
 地獄篇と煉獄篇では地上的なものが題材にされて描かれましたが、天国篇ではこの世のものではない神学的な宇宙観が描かれます。この宇宙観を描き論じるのがベアトリーチェです。ベアトリーチェは生前とは随分異なり、このような抽象的なことを論じるのですね。多弁です。

 また訳注のp31のまとめから、次のようにも考えられます。
 第10の至高点は神の住処であり、不動点であります。これは「天」ではなく「点」です。点というのは、複数ではなく、単数の点であると思われます。それは唯一のものである点であります。存在というかたちで空間を占めるのではなく、空間を超越したような点であろうかと思われます。また時間をも超越しているでしょう。そして第9の原動天があります。これは物質的宇宙の最外縁であり、時空があり、多数性によって特徴づけられるとおもわれ、運動をしています。そして第8の恒星天があり、それぞれ7つの天があります。

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第1歌では、キリスト教とギリシア神話の混合がみられましたが、ギリシア神話の具象的な神々が描かれています。この第2歌では、抽象的なロジックで描かれていますが、これもまたキリスト教とギリシア系の異教の哲学が混合されているのでしょう。ここで思い当たることは、新プラトン主義の源流とも位置付けられるプロティノスの哲学です。プロティノスの『エネアデス』での一者とそれをめぐっての諸存在の在りようについての記述は、ダンテが描く天国の構造にも似ているようにおもわれます。たぶんダンテはプロティノスのことは知らなかったかもしれないと思われるのですが、アウグスティヌスは知っていたはずであり、アウグスティヌスはプロティノスの影響を受けています。アウグスティヌスは、キリスト教と新プラトン主義を組み合わせたとされています。ダンテの天国篇もアウグスティヌスを通じて、この流れを汲んでいるのではないでしょうか。その点も今後検討してみたいです。