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2016年8月2日火曜日

ダンテ『神曲 地獄篇』第7歌 貪欲と吝嗇、そして憤怒

 ここでは第4圏と第5圏という二つの圏が組み合わせられていて、ペアになっているものと考えられます。

 地獄の第4圏、貪欲にたいする責め苦です。この貪欲は浪費と吝嗇(りんしょく・ケチのこと)の二つに分かれています。浪費者と吝嗇者が激しく対立していて、相手に向かって罵り合い、巨大な岩を転ばしています。互いに、「なぜため込むのか」、「なぜ浪費するのか」、と。ウェルギリウスは、その双方ともに節度がなかったと説明します。
 この吝嗇者は、聖職者であるとされていますが、顔が穢れのために見分けがつかなくなってぼやけているので、誰なのかははっきりしません。しかし、その中に教皇や枢機卿や枢機卿が混じっていることも示唆され、教皇庁に対する強烈な批判となっています。
 ダンテはフィレンツェの商人たちの政治抗争によって、黒派の手によってフィレンツェを追放されましたが、この黒派は教皇ボニファティウス8世が結託していました。フィレンツェの商人たちを浪費者にみたて、そして教皇を吝嗇者にみたてて、地獄においては互いに争わせています。これは喜劇的な皮肉をともなった設定なのでしょう。

 「運命の女神」は、富を与えそして取り上げる神です。
 
 次に第5圏 憤怒者たちにたいする責め苦です。憤怒者も二手に分かれています。一方は怒りで己を見失い身を滅ぼした者たち、もう一方は怒らなければならないときに怒れなかった者たちです。双方とも頭や胸や足などを使って互いに打ち合い、噛みつきあっています。
 第4圏はフィレンツェの商人たちや教皇庁にたいするダンテの怒りを表明しているのですが、第5圏では怒りで己を見失うことを戒め、また怒るべき時に怒らないこともまた同罪であるとから、理性的で賢明な対処を自戒も込めて求めているのでしょう。