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2016年10月6日木曜日

ダンテ『神曲 地獄篇』 第34歌 (最終歌)


 第34歌 解説P614
 いよいよ地獄篇の最後の歌です。

 ユダとブルータという二人の裏切り者。そして地獄をぬけてこれまでの様相が異なることについて。魔王ルシフェルの転倒した姿に見えるようになったことについて。





 「地獄の王は旗翻(はたひるがえ)す」(「あるいは地獄の王の軍旗の群れが近づいてくる」)ではじまります。この旗とは魔王ルシフェルの翼の比喩でもあるとのことです。またこれは「王は旗翻す」という6世紀の祈りの詩(うた)を作り変えたものです。魔王ルシフェルが神の世界とはさかさまになっているということでもあります。実際、地獄から見るとこの魔王は立っているのですが、天国からみると、魔王は逆さにされて地獄に突っ込まれているのです。この魔王ルシフェルはもともとは最高位の天使で、光を運ぶものを意味する名前ですが、天地創造の後に、自分の美しさから神に反旗を翻したために、怪物の姿に変じられ地獄の王として落されてしまったらしいです。自己愛による尊大さに起因する罪によって地獄に落とされたのでしょう。
 ルシフェルはきわめて巨大で顔が三面あります。正面は赤、右は薄い黄色、左は黒。それぞれの顔の下にはきわめて大きな翼が二枚ずつ(合計6枚)はえていました。羽毛はなく蝙蝠(こうもり)のような翼です。翼をはばたくと風が発せられます。ルシフェルは氷から胸の半分を現していました。6つの目からは涙が流れ、3つの口からは涙と血が混じった涎(よだれ)が垂れていました。彼は機械のように罪人をかみ砕くまるで機械仕掛けの人形のようなのですが、3つの口で3人の罪人をくわえていました。
 一人はユダであり、頭から噛みつかれて足は外に出てうごめいていました。あとの二人は皇帝カエサルを暗殺したブルータスととカッシウスでした。ブルータスは共和制ローマを復興しましたが、これはダンテの中世末期の共和制都市国家間での内戦状態の原型のようなものとみなされているようです。カエサルを裏切って殺すことで内戦状態という間違った方向に導いた罪です。

 時は夜になっていました。この地獄を踏破したのは24時間です。この地獄のすべてを観ました。もはやダンテは発たなければなりません。ルシフェルの毛をつたって、氷の隙間から下に降りました。そして地球の中心部に達しました。つまり北半球から南半球の境目を通り抜けてきたのです。すると重力は反対方向になり、南半球側におりたつと、ルシフェルは転倒した状態に見えて、両脚を上に向けて突き出していました。ルシフェルは穴から地獄に突っ込まれていたのでした。それは第19歌の穴に突っ込まれた教皇たちの姿にも似ていました。この教皇たちも頭が転倒した特徴を持っていました。天使だったころのルシフェルは無比に美しい姿だったのですが、魔王に変じられてからはたいへん醜くなっています。この点でも逆になっています。
 北半球の地獄は夜に入りましたが、逆に南半は朝でした。これもさかさまになっていました。そして南半球には煉獄があります。これから煉獄に入ります。
 北半球はキリストがエルサレムを中心とした陸地であり、魔王が失墜したときに南半球の陸地が北半球に逃げて移動したために海になっています。北半球は罪にけがれており、南半球は神の側です。南半球の内部の土によって煉獄山も形成されて、その頂上に楽園があります。
 そしてダンテは上方の星々を観ました。地獄には星々は見えませんが、煉獄では星々が見えるのです。星々は希望を表します。
 南半球の頂上には煉獄山の頂があります。



 これでようやく終わりました。本当に長かったです。以前に読了するのを挫折しましたが、どうにかこうにか頑張りました。といっても全体をまんべんなく読んだのではありません。
 読むのに大変苦労する著作です。難しい文章が多かったり、ぴんと来ないところが多々あったりで、なぜこれが世界の名著の一つに数えられるのか、わかりづらいですね。
 ダンテの着想の癖のようなところ、今から見れば不適切な考えなどもあります。
 またダンテの思想にどれくらいの深みがあるのか、疑問を感じるところもあります。