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2016年12月15日木曜日

ダンテ『神曲 煉獄篇』 第9歌 煉獄の門



ミケリーノによるダンテの肖像画、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(ドゥオーモ)所在
左から地獄、煉獄、ダンテ、フィレンツェというふうに配置されています。この絵は、ダンテの『神曲』をもっともよく表している絵画の一つでしょう。とくにフィレンツェという都市国家をめぐる情勢がたいへん濃厚に書き込まれています。


 煉獄門を入るにあたっては、いろいろなアレゴリーがあるようです。

第9歌 
 前煉獄から煉獄への移動を描いています。これはでは前煉獄でした。
 ダンテは『新生』では生々しい白昼夢、夢、幻視のようなものを幾度も見たことを記していますが、ここでは夢の中でダンテは黄金の鷲が彼を火天(天と地上の境目)につれていき、両者が燃える有様でした。目が覚めると、ダンテは、聖女ルチーアによって王侯たちの谷から煉獄の入り口に運ばれていました。
 それにしても、ダンテは、歴史上の様々なスペシャルな人々にであい、また聖人たちに出会い、天使たちに出会うなど、生きたままででこれほど凄いものはないであろう体験をたくさんします。ダンテが自分自身に対するこの特別な待遇を何ととらえたらよいのでしょうか。

 ダンテとウェルギリウスは煉獄の門をくぐります。そのときには三段の階段があります。第一段目は穢れのない良心、第二段目は告解、第三段目は贖罪です。これは天国を目指して煉獄山を上る基本原理なのでしょう。また「3」は完全数という象徴です。煉獄門を守る天使は抜き身の剣を持ち、ダイアモンドの閾(しきい)に座っています。ダイヤは硬い不動の意志を現しているようです。剣は公正と正義でしょうか。ダンテが天使の前に跪くと、天使はダンテの額に罪Peccato頭文字であるPを7つ刻みましたが、これは7つの大罪を表しています。ダンテ自身が7つの大罪を犯したわけではないと思われるのですが、ただ、心の奥底までよく省みて、自らの中に7つの大罪にも通じる何かがあることをよく吟味し、自覚し、告解と贖罪をするようにということでしょう。この儀式は告解の秘跡です。天使の服は灰色であり、灰色は改悛や敬虔の象徴となっているようです。煉獄門の重い扉は厳かに開かれ、美しい讃美歌『テ・デウム(神よ、御身をわれらたたえます)』が流れます。地獄には一切の音楽がありませんでしたが、ここでは音楽が存在し、しかもそれは天上を予示する美しい讃美歌です。また地獄には門がありましたが開かれていました。しかし、煉獄では門は日頃は閉じられています。これは、選ばれたものにのみに煉獄への入門を許されているからです。ここには厳格な選別があります。閾(しきい)もダイアモンドでできていることも、鉄よりも固い意志によって内側からも外側からも貫徹されるべきものとされているようです。
 ここは第9歌であり、「9」という数字はダンテにとって奇跡的な聖なる数字として重要です。『新生』でもことあるごとに9または9の倍数が出てきます。たとえばベアトリーチェは「9」との関係が深いです。この『煉獄篇』ではあたかも偶然であるかのごとくに第9番目の歌において、告解の秘跡を受けて贖罪の道に入ります。