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2017年1月12日木曜日

人間嫌い モリエール 2017年1月1日コメディー・フランセーズ公演


 演出によって解釈が変わって、違う流れが見えてきたりします。
 劇中、主人公アルセストは意中の女性セリメーヌに何度か口づけをします。この演出では、二人は心身ともに距離がとても近いと解釈されています。このように親密であるからこそセリメーヌはアルセストを裏切っているということを浮き彫りにしています。
 セリメーヌの数々の不誠実なやり方が皆の前に露見した後も、最後までセリメーヌはアルセストの心が戻ってくるかもしれない、と待っています。セリメーヌは単なる悪女ではありません。
 アルセストはセリメーヌを諦めると同時に、卑劣にももう一人の女性に「ずっと前から愛していた」求愛します。アルセストはこの女性に拒まれます。この女性は予(かね)てから、彼の親友フィラントと愛を誓った相手であるにもかかわらず。そんな関係をアルセストは知っているのか知らないのか、勘のいいアルセストが知らないはずもないのですが。アルセストも純粋な人間であるとは必ずしも言えません。このように下劣なこともパッと思いつくのです。

 アルセストは、色々な人との感情的な関わりが多いですが「人間嫌い」です。しかしむしろセリメーヌこそ人間嫌いかもしれません。二人は真反対の性格であるように見えても、根は似たようなところがあります。似た者同士だから二人はシンパシーがあるのでしょう。進む方向が違うためにすれ違ってしまいました。セリメーヌは多面的なところがありますが、彼女がアルセストを最後まで求め続けたのも、多面的な意味が含まれているはずです。セリメーヌの外面的なものは全てが引き剥がされましたが、その後には何が残るのでしょうか、本当のセリメーヌは何なのでしょうか。空虚さの残る結末です。