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2018年2月12日月曜日

1. 雨: Une vie『女の一生』モーパッサン



 Jeanne, ayant fini ses malles, s'approcha de la fenêtre, mais la pluie ne cessait pas.
「ジャンヌは荷物をまとめてから、窓に近づいた。しかし雨は降り続いていた。」
 これは有名な冒頭の一文です。何気ないはじまりですが、どことなく趣きがあります。

(s'approchaは単純過去であり、cessaitは半過去。前者が過去の一点の行為を表しているのに対して、後者は過去の状態や継続性を表しています。単純過去は主に小説に用いられています。単純過去は、複合過去と同じと考えることができます。)




















 ジャンヌは父親に修道院に入れられて、17歳になって、つまり昨日修道院を出る事を許されました。今から家(家と言っても貴族ですから城・シャトーです)に帰るところです。彼女は荷物をまとめて早く出発したいとウズウズしています。でも雨が強くて出発できないかもしれません。このように小説の冒頭に雨のシーンを持ってきたのはなぜでしょうか。
 少し深読みすれば、これはおそらくはジャンヌのこれからの苦難を表しているのでしょう。それに付け加えておきたいのは、希望に向けての再出立への願いを表しているのでしょう。荷物をまとめて雨の中をくぐり抜け、新しい生へと至るのは、これはジャンヌの踏んだり蹴ったりの苦難に満ちたこれからの人生のなかで、今回だけでなく将来においても、数十年という長いスパンで繰り返されるはずであろうと思われます。
 深読みしつつ、雨降りの場面は、おおよそこのような状況設定がなされています。この雨降りがかなり詳細に説明されています。激しい雨です。

 "L’averse, toute la nuit, avait sonné contre les carreaux et les toits. Le ciel bas et chargé d’eau semblait crevé, se vidant sur la terre, la délayant en bouillie, la fondant comme du sucre. Des rafales passaient pleines d’une chaleur lourde. Le ronflement des ruisseaux débordés emplissait les rues désertes où les maisons, comme des éponges, buvaient l’humidité qui pénétrait au dedans et faisait suer les murs de la cave au grenier."

<以下は自分なりの意訳ですが、通常の翻訳より原文のニュアンスが伝わるところがあります。>

 「雨は一晩中家を打ち鳴らし続けたのでしたが、空は低く垂れ込め破裂しそうなくらい水が一杯ではち切れんばかりでした。それが全部、空(から)になるほどに地上に降ってきて、地面はまるで沸騰して溶けかのような、あるいは砂糖が融解しているかのようでした。そしてこの雨は、猛烈な湿気を帯びていたので、家はスポンジの様に湿気や水分を飲み込んでいて、室内の壁は、地下室から屋根裏部屋に至るまで、汗をかくかのごとくに水が垂れているのでした。」

 ただごとではない雨ですね。

 また今後、要所要所でフランス語で読んでみたいと思います。