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2018年6月27日水曜日

Une vie『女の一生』の全体から。


 だいぶん期間が経ってしまいました。その間、フランス語では第6章まで(前3分の1)要所要所を読み進めていました。今後、また第1章から順次、フランス語原文を取り上げたいと思います。
 また、全体を日本語訳で通読しました。
 主人公ジャンヌの悲惨な人生ですが、最後は希望も見出されます。これは冒頭の雨の中での出立のシーンとも対応しているようです。悲惨なままでおわったらこの小説の場合は、ちょっとがっかりしたものになったでしょう。ジャンヌは破滅したのではありません。ロザリという女性のサポートもあって、その寸前で止まったようです。人生はそんなに素晴らしいものでもないし、そんなに悪くもない、と語られますが、これは作者のモーパッサンの考えでもあります。しかしジャンヌの生涯(une vie)は全体としては悲惨なものでした。
 ジャンヌの場合、このあまりに悲惨な人生を歩んだ原因はなんだったのでしょうか。ジュリアンに引っかかったばかりにそのようなことになったのでしょうか。あるいは家族内病理のようなものがあったのでしょうか。ジャンヌの中に何か問題でもあったのでしょうか。
 確かにジュリアンという偶然的要素があります。偶然的要素つまり外的な要素です。いわば交通事故にあったようなものだとか、悪いくじを引いてしまったともいえるでしょう。他のもっといい男性に出会っていれば、こんなことにならなかったでしょう。あまりに若いジャンヌが修道院から出てまもなく決めた結婚であり、彼女には判断する能力はありませんでしたし、何より父母がそれを全くみ抜けませんでした。ジュリアンの外見や身のこなし方などを見ていい男だと見込んだのでした。ジャンヌは、あまりに早すぎた結婚ということを何度も悔やみました。結婚した当初は絶望に突き落とされた気持ちであり、この絶望はほぼ的中してしまい、現実のものとなったのでした。このように明らかに外的要因があります。
 ただしこの絶望をより一層に現実のものとしてしまったのは、ジャンヌの息子マリウスです。マリウスは父親の悪い気質を受け継いでいたというのもありますが、マリウスの吝嗇(りんしょく・ケチ)とは真逆の大浪費家であったのは、裏表の関係で気質が引き継がれたのでしょう。またマリウスには父親の機能が働いていませんでした。また、ジャンヌの人生(une vie)は空虚に支配されがちであり、息子マリウス以外には何もなくて、マリウスを溺愛して、スポイルしてしまったのでした。これは明らかにジャンヌの側に問題があります。それではジャンヌにはどのような問題があったのでしょうか。あるいはどのような家族病理があったのでしょうか。内的要因と外的要因が組み合わさって、悲惨な人生が出来上がったのでした。これは恐ろしいことでもあります。また、彼女は、修道院を出た17歳の頃から成長していないかのようです。
 しかしこれらの悲惨な生涯une vieを通じて、人生uneの終わりに向かう時期でも、希望を捨てないでいます。それが吉とでるか凶とでるのかはわかりません。