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2018年10月9日火曜日

『日の名残り』カズオイシグロ著



The Remains of the Day
1989年

 主人公は執事スティーブンスです。彼の手記として、この文章が書かれたような形になっています。彼は有能な執事であり、自分の天職に身を奉じるようなタイプの人です。この執事としての職業柄と主人公スティーブンスの性格はピッタリと一致しています。彼は執事の品格とは何であるのか、自分の職業について考え続けています。この手記を書いたのは1956年頃の現在であり、この現在と1920年代から30年台にかけての過去の回想を行ったり来たりします。今はもう執事としての仕事の能力は徐々に衰えていると感じ始めて、漠と悩んでいます。

 ある日の夕方、街や行き交う人々のリアルな描写の中で、ある人と会話をします。一日の中で最も良い時間帯は?その人は、間違いなく夕方だと答えました。スティーブンスは、人生も一番いい時期は、夕方つまり「日の名残り」の時期かもしれない、と考えます。現在と過去が、つまり今を生きることと過去の回想とが、ここで一つになり、生の全体が見えるかのごとくです。

 また、この作品に随所に見られる巧みな描写には感歎させられます。