分野別リンク

2020年7月25日土曜日

8.ジュリアンの顔の描写 『女の一生』モーパッサン

長い間ブランクが出来てしまいました。できれば再開したいです。



 「超イケメン」の単なるイメージだけです。この写真の人物はパリ・オペラ座のエトワール、マチュー・ガニオです。日本でも彼のファンは少なくありません。

——————————————————————

 ジャンヌが修道院を出て自分の館(城)に戻ってきて、とある日曜日に、父母と教会に行きました。そこではじめて未来の夫であるジュリアンに出会いました。ジュリアンは子爵の位です。ジャンヌの父親は男爵です。子爵と男爵とでは子爵のほうが一つ上です。でも経済的に豊かなのはジャンヌの側です。ジュリアンは経済的には少し低落気味なのです。そしてジュリアンは金持ちの貴族と結婚をするつもりで、婚活もしているらしいです。ジュリアンはジャンヌに狙いを定めます。

 ここでは、ジュリアンの外見を描いています。頭から顎へと、つまり上から下にむけてだんだんに見ていくというふうな描写の順序になっています。描写は彼の顔だけです。ジュリアンの顔は今風でいえば一言「超イケメン」です。彼の顔の描写を見ると、どうやら百発百中程ではないかもしれませんが、これぞと思った女性に声を掛ければ、大抵成功するのではないか、というくらいの勢いがあります。顔の中でも特に特徴的なのは、目であって、彼の眼差しは雄弁であって、少ない言葉数で思いの深さと重要性を効率的に女性に伝えて、口説き落とすことが出来るのでしょう。顔の諸々のパーツは、この眼差しの効果を引き立たせる強力にして補助的な作用があります。
——————————————————————
 フランス語では、結構ひねった言葉の使い方で、すごく凝った描き方です。難度の高いフランス語です。

 「子爵(ジュリアン)はお辞儀をした。彼は、かねてからお知り合いになりたいと思っていました、と告げて、ゆとりをもって話し始めた。彼は紳士らしく為すべき事をよく心得ていて、経験も積んでいるふうだった。彼は女性たちが夢見るような顔立ちをしていた。もっとも同性にとって不愉快であった。カールした黒髪が、すべすべした褐色の額に影を投げかけていた。眉毛はまるで描いたのではなかとおもうほど、太くて綺麗に整っていて、この眉毛が彼の黒い瞳に深みや優しさを醸し出していた。そして白目はわずかに青みがかかっていた。
 彼のまつげは密で長く伸びていて、彼の眼差しは情熱的な雄弁を振るい、彼がサロンに顔を出すと美しい貴夫人の心を悩ませ、通りを歩くと帽子をかぶって籠をもった少女が振り向かせた。
 彼の目は悩ましげな魅力があって、思いが深いに違いないと思わせ、その目でもって、ほんの少しでも口を開くだけでも大切なことを語っていると思わせた。
 あごひげを生やしていて、密生して、光沢があって、繊細であった。このあごひげはちょっと強すぎる顎を隠していた。」
 
Le vicomte s’inclina, dit son désir ancien déjà de faire la connaissance de ces dames et se mit à causer avec aisance, en homme comme il faut, ayant vécu. Il possédait une de ces figures heureuses dont rêvent les femmes et qui sont désagréables à tous les hommes. Ses cheveux noirs et frisés ombraient son front lisse et bruni ; et deux grands sourcils réguliers comme s’ils eussent été artificiels rendaient profonds et tendres ses yeux sombres dont le blanc semblait un peu teinté de bleu.

Ses cils serrés et longs prêtaient à son regard cette éloquence passionnée qui trouble dans les salons la belle dame hautaine et fait se retourner la fille en bonnet qui porte un panier par les rues.

Le charme langoureux de cet œil faisait croire à la profondeur de la pensée et donnait de l’importance aux moindres paroles.

La barbe drue, luisante et fine, cachait une mâchoire un peu trop forte.

 ジュリアンはジャンヌに対しても、魅力的な眼差しで、ジャンヌの心に訴えかけます。ジャンヌは速いテンポでジュリアンに惹かれてゆきました。ジャンヌはまだ17歳でしたが、以前にもみたように、性や恋愛に目覚め、もう準備は整っていました。それに当時は女性の婚期は早かったのでした。